本番


いよいよ本番当日。
劇場入りしてスタッフと照明きっかけの確認。劇場の企画で動いているHさんがとにかく仕事のできる人で、照明の変更やプランニングなどもいろいろ手助けしてくれる。劇場機構を熟知しているので、「ここはあそこからの照明がいいかもですね」とか「もう少しタッチをつける方法もありますよ」など照明家と一緒に様々な手を提案してくださる。きっかけも細かく確認していただき「後で照明家に伝えます」など痒い所に手が届く仕事っぷりで、驚くばかり。僕が15年ほど前にこのフェスティバルに呼ばれてデュトワの指揮でシェンベルクの「月に憑かれたピエロ」をやった時に、Hさんは舞台スタッフで入っていて、そこで僕の作品を見ていたとのこと。その流れで今回声をかけてくださったのね。バヴゼに合うんじゃないかって。そんなHさんは専門がオペラの制作とのことで、なるほど音楽のみならず色々な部門に目端が効くわけだ。

こちらも動きの直しをギリギリまでやってから午後にGP。バヴゼは今日の本番に向けて僕との演目だけでなく、第一部に弾く演奏も仕上げないといけないわけで、暇さえあればピアノを弾いている。けど、なんだろう、基本的に明るい人でポジティブなオーラを纏っていて、決してスタッフや周りの人を寄せ付けない感じじゃないんだよね。逆に垣根を取っ払うタイプの人。いつもニコニコしてるし。僕は手塚治虫の漫画に出てきそうな感じ、と思った。そんな彼を交えての通しリハーサル、GPを経て本番に。麻世は客席から見ることになった。
第一部では水の戯れから始まりフランス近現代の作曲家を中心に、彼のレパートリーなんだろうね。全て暗譜で弾いてた。おわー。おいおいと思ったけど、ビビったのはその演奏。明らかに一段ギアの入った演奏でぐいぐいと聴衆を引っ張っていく。エネルギッシュでしたね。
いよいよ第二部で「Endless Garden」と題してドビュッシーの「映像第一集・第二集」で作った30分ほどの作品を上演する。原題は「Images」だから、曲ごとに異なるイメージ、風景を作ったのだが、いくつかのシーンは観客にも届いたのではないかと思う。いろいろ技も駆使してね。
終わってアンコール。実は今日の昼間になって「アンコール決めてなかったんですが、『月の光』で即興で踊ってもらえませんか?」といきなり言われ一瞬フリーズした。けど、あらかじめ麻世から「こういうリサイタルは必ずアンコールあるから、多分じゅんじゅん踊ってって言われるよ」と聞いていたのもあり、「喜んで!」と笑顔で答える。ひぃえええ。即興で踊んのかよ。とも思ったが、あくまで演奏に華を添えるわけだから、、、。けど俺、添えられんのか?華を?と戸惑いつつも、縁起ものだし、と自分を奮い立たせる。
暖かいカーテンコールに支えられ、アンコールの「月の光」へ。雨の中来てくださった皆様へ捧げる気持ちで頑張りました。
終わってニコニコのバヴゼとハグ。「乾杯しよう!」と打ち上げに。
彼の音楽事務所のスタッフさんがスムースに案内してくださり街中の居酒屋で4人で乾杯。終わって初めてゆっくり話す。スマホを出し合いアドレスの交換から、今回の作品のことや彼の音楽遍歴の話など。ダンスの人とやるのは全くの初めてとのことで「JUNの映像を見たときに、I love this guy!って思ったんだよね!」と嬉しそうに語る。ダンスではイリ・キリアンが大好きで、キリアンは音楽を音楽家より知っている。なんて貴重なコメントも。彼にはモーツァルトを感じるって言ってた。また絶対一緒にやろうぜ!とハグして再会を誓い合う。

終わるといつもあっという間ですが、3月から急いで資料をあたり、稽古場に通い作品を作ってきた道のりを思い出しながら、タクシーに乗り込み、雨の街並みを眺めつつホテルに向かう。