演出

ダメ出しって言葉がある。
演出家が全体が整ってきてから「あそこはこう」とか「ここはためて」とか言う指示のこと(多分)。始めた頃は知らなくてかなりたってからそういう言葉があることを知った。もちろん以前からそういうことはやってたんだけど、それをこういう現場一般では「ダメ出し」と呼ぶんだな、と知ったのね。水と油では使わなかった言葉。初めてこの言葉を聞いた時違和感があった。
なんで、「ダメ」を出すんだろう?「お願い出し」じゃだめなのかな。
ダメが直ったからといって作品が良くなるとは限らない。演出家の言う通りに間違いないけど、なんだかつまらない。まあそんなのは勿論演出家の責任だろう。そういう指示を出したんだから。しかしダメ出しって言葉の中に減点法のにおいがあり、何か大事な気持ちをそいでしまうのではという危惧は無いのか。ダメ出しをクリアすることが正解ではなくて、その要求の向こうにある見えざる理想を共有するために「ダメ」を出すわけでね。じゃあ、ダメじゃなくてもいいじゃん。お願いでいいじゃん、と思うわけ。同じ怒鳴るのでも「ダメ出し」で怒鳴るのと、「お願い出し」で怒鳴るのでは受け取るニュアンスも違うんじゃないのかなあ。あのシト、本気でお願いしてるんだなあ、って。違うよ!って言われても、「ああ、アイツの欲しいのと今のは違ったのね」ってフラットに受け止めるんじゃないかなあ。外国ではどういうんだろう?
嫌なのは上下関係なのよ。ともすると演出家が上でダンサーが下になりがちじゃん。勿論そういうところは厳然としてあるんだけど、あくまで作品をつくる作業に置いてはフラットでいたいのよ。それはお互いを尊重するってことと矛盾しないと思うし。それぞれの立場で専門家が集まり一緒に作品をつくるわけでね。甘っちょろい理想主義だけど、せめて理想でも言ってかないとって感じ。
実は今日の稽古でちょっと萎縮させちゃったかなあと思ったのね,通しを見て。ここんとこエンジン全開で怒鳴ってたし。しかしその人自体に怒鳴ってるわけではなくて、作品が向かうべき方向を細かいところで指示してるつもりなのよ。大いなる自戒と反省を込めて書きますが、僕の怒鳴ってるのは「お願い出し」、です。お願いしてるんです!土下座とニュアンス変わんないのよ、自分の中では。だって好き勝手な風景をつくらせてもらってるんだもん。舞台で動いてもらえるだけで感謝ですわ。それだけにある種の到達点まで是非一緒に行きたいのよね。それがダンサーに対する一番の感謝の方法だろうと。
今回はダンサーが読んでることを前提に書きました。
他の方には「ああ、今最後の詰めなんだなあ」と思っていただければ。