旅する地域考|AKIBI複合芸術プラクティス Day 1

発端は秋田公立美大のしげさんから「じゅんじゅんさん、8月空いてない?」と連絡が来たことだった。
しげさんこと岩井成昭さんは2012年に岐阜県可児市でやった多文化共生プロジェクトで一緒になったアーティスト。その時は「顔」をテーマに可児市に住む様々なバックグラウンドの子供達と関わり作品を作ったのだが、その時に知的ながらとっつきやすいやり方で顔にまつわるWSを展開し、子供達を巻き込みつつプロジェクトのテーマに軽やかに切り込んでいく手腕を見て、密かに「この人できる」と恐れおののいた思い出がある。そんな出会いを経て作った舞台作品「顔/ペルソナ」は自分にとっても忘れられない作品となった。
彼は秋田公立美大で複合芸術という領域を教えていて、その一環で夏にキャラバン形式のWSをやるのだがそれに関わってもらえないか。という話だった。話を聞いた時には正直内容がよくわからなかった。曰く参加者と講師が一緒に秋田のスポットを巡りレクチャーやWSを挟みつつ最終的に参加者がプレゼンをする。というものだが、キャラバン形式のWSが果たしてどのようなものなのか皆目見当がつかず、おまけに現代美術の企画で果たして僕になにができるのか全く想像がつかなかったが、現代美術の人たちと会えるという興味と単純に秋田行ったことないしなあという好奇心もありお引き受けすることに。
「自らの創作にまつわる話」と「アイスブレイク的なWS」をやってほしいと言われ、なんとか方向をまとめてプランを先方に送ったときは当日まで2週間を切っていたと思う。それでも初めていく秋田にワクワクしていたのも事実で、不安ながらも楽しみに当日を待った。
前の日に秋田入りし、次の日に岩井さんに朝ホテルに迎えに来てもらい現地へ向かう。彼が秋美に来ることになる直前に知り合ったのだが、すっかり秋田での生活が馴染んでいるようで道中色々教えてくださる。道道見かける不思議な機械を指差し「あれ、石油汲んでるの」とか「昔はこの1本裏道が結構な繁華街だったんだよ」などなど。いつもそうだが、日本の地方も全てそれぞれ独特な味わいがあり、そっけない駅前と打って変わって街中や郊外には面白い景色が溢れている。その多くが昔栄えていた頃の名残とはいえ、その匂いを嗅ぐのも悪くない。そんな秋田市から一路東へと向かう。途中山を越え田園風景に癒されつつ向かった先は内陸の鹿角市にある鹿角花輪駅。ここが今回のキャラバンの本拠地となる。駅前のホテルに荷物を預け近くの文化センター「コモッセhttp://comosse.jp/」にて13時から「旅する地域考」スタート。
まずは全員で顔合わせを行う。参加者は10名で講師は僕の他に陶芸家や映像作家、フェスティバルのプロデューサーやフードプロジェクトを行なっているアーティストなど多岐にわたる顔ぶれ。それに加え製作チームや記録チームを始めスタッフ陣も合わせ、全部で30名以上になる大所帯のキャラバンとなる。全体のオリエンテーションを行い、今回の目的「旅を通じてそれぞれが新たなプロジェクトを最終的に提案する」「秋田県鹿角市の地理風土を共に巡り、体験する」などの概要を今一度確認し、いよいよキャラバンスタート!
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マイクロバス1台とそのほかにスタッフらの車が5〜6台ほどのキャラバンで移動して向かった先は、とある一件の農家。割と広めの庭の奥には小さなサイロも見える。
この家の持ち主、鹿角市出身の青山ときおさんという画家で最初のセッションは彼へのインタビュー。
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ご挨拶の後、先に室内を見学させてもらう。親戚の一軒家を譲り受けて一人で暮らしているとのこと。
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画家のアトリエを覗くこともそうはないので興奮しながら、見学。写真に写っていない場所にはアメコミやグッズが満載で、そこここに置かれている作品を見ると、割とグラフィティっぽい作風でジャズの巨人やブラックミュージック系の人をモチーフにした作品が多い。見学の後は居間でインタビューセッションに。
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曰く、子供の頃から絵が好きでずっと書いている。レコードのジャケットを描きたかった。アメリカに旅行している時に絵を描いて回っていてそのつてで有名なミュージシャンのジャケットを書くチャンスを掴み、そこからずっとCDのジャケットなどをかいている。アメリカのモータウンのオフィスにも自分の絵が飾られている。などなど。僕は失礼ながら存じ上げなかったのだけれど、飄々と語るその語り口からは想像のつかないエネルギーで絵を描いている人なんだなということは伝わってくる。聞けば毎日8時間くらいはずっと描いているとのことで、全身芸術家のような人。家の内装や家具も大好きでそこここに自作のテーブルなどがあり、今後は家具も作っていきたいと。落ち着いた田園風景からは想像のつかない宇宙を感じた。
その後少し日差しが落ち着いたので外で僕のWS。実は最初「外でWS出来ますか」と言われ、何をやれるか困ったのね。ダンスやボディワークってほぼ室内でやるじゃん?外でやれないこともないけど、未経験者も多い中ガッツリ動くわけにもいかないし。で、考えた末に思いついたのがブラインドウォーク。これなら経験問わないし、アイスブレイクにもいい。そして美術のWSでそれぞれが見ることのエキスパートであるがゆえに「見ない」ことはいい刺激になるのでは?と思ったんだよね。
そんなこんなで始めたWSは互いの紹介も含めつつ、新鮮な刺激とともにいい体験の時間となったように思う。外でやるブラインドウォークは足元の芝生の感触や土の様子、日差しや風なども感じられて、室内では得られない豊かさに満ちていたことも思わぬ収穫で。先ほどの画家、青山さんも楽しそうに参加していました。
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ゆっくりと日が暮れていく中、1時間ほどのWSを終えて、今日のセッションは終了。ホテルに荷物を預け夜はみんなでご飯。このキャラバンはみんなでその土地のものを一緒に食べるというのもカリキュラムに含まれていて、初日の夜は鹿角の地で親しまれているホルモン鍋。最初秋田でホルモンと聞いた時にえ?と思った。一般的な秋田の食の印象ってきりたんぽとかしょっつるとかじゃない?いわゆる米どころの伝統的な食事って印象しかなかったんだけど、こちらでは鉱山が多く、そこで働いていた人々に親しまれていた料理で現在はこちらのソウルフードといってもいいくらい親しまれていて何件もホルモン鍋屋があるとのこと。そのうちの一件「ホルモン幸楽http://www.ink.or.jp/~hkouraku」で初日の乾杯を。
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ホルモン鍋とはいっても使う鍋はジンギスカン鍋でプルコギみたいな感じで焼いていく。
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こんなふうにホルモンが焼けてきたら、周りに豆腐を入れてしばしグツグツ煮る。するといい匂いがしてきて、食べられる状態に。お腹が減っていることもあり、
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いただきます!うまい!
すぐに鍋は空き、お代わりを追加。日本酒の差し入れもいただく。
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鍋の汁が飛んでいる。
ホルモンは割としっかりとした歯ごたえがあり、美味しかった。一緒に入っているキャベツと豆腐にも味がしみてたまらん。たまらず「ご飯!」と声がかかる。みんな大盛りをあっという間に平らげておりました。若いっていいなあ。一気に食べた後は今日1日の疲れがどっと出てきて終了。
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いやあ、秋田でホルモンが名物になっているとはねえ。いつも地方に来て思うけど、いわゆる情報で知っていることと全然違う地元ならではの風景や味、温度がとても面白い。駅前は同じ風景なことが多いけど、それでも地方地方によって様々な暮らしがありそこの人々が味わっている食べ物があり、吹いている風がある。その場所でしか感じられないこと。が旅のテーマでもあり、初日から存分にこの土地を味わっている。
続く