さあ、書くよ。今日は長いぞ、みんな、ついてくるんだ!
とにかくまあ勝手が違いすぎる上に、オーガナイズがグダグダなため連日トラブル多発。
まず全体のスケジュールが手元の届いたのが出発の5日前。それも簡単なテキストが届いたのみ。一日ごとの細かいスケジュールは「そんなこといわれても」といった風情で現地に行ってもとうとうもらえなかった。そのため、リハーサルや仕込みの時間もわからない。もちろん顔を合わせるたびにどうなってんの?とつついているのだが、みんな誰に聞いて良いのか分らない状況で情報が錯綜。普通ならその時点でエマージェンシーなので、全体ミーティングをして体制を整えるとかするもんだが、何もなし。
受け取ったプログラムには一週間で14団体、連日2公演づつ入っているため、基本仕込みは当日しかない所が大半。僕の劇場は幸運にも前二日間空いていたため早めに入れるかと思ったが、コレが大間違い。
機材が全く足りないのだ。
照明そのものはいうにおよばず、照明卓もぶっ壊れていて、満足に動くチャンネルが7つしかない。後はスイッチオンオフのみ。
音響卓は何とか動いたが、CDプレイヤーが市販の安いDVDプレイヤーというていたらく。その機材も他の団体の本番で使うとの事で無くなっている。それを誰に聞いていいかも分らない。他にも机と椅子、スクリーン用に長い木材をお願いしていたのだが、全く伝わっていない。
コレをひとつひとつつぶしていく。
まず机といすは期間中にWSをしたドイツ人学校にお願いし、取りにいく。木材は手伝いに来ていた学生にアトリエにある棒を持ってきてもらう。照明機材は当日に他の劇場に取りにいった。その劇場ではギリシャのカンパニーが仕込みをしていて、怒号が飛び交う中での交渉。ギリシャのカンパニーも来てから本番の日が話と違う事が分ったらしい上に、演出家の帰りの便が本番当日の昼に予約されていて変更不可とのこと。もうメチャクチャ。照明は使わないのがいくつかありすんなり借りられる事になり、お互いに「がんばろうな」とかたい握手を交わす。
話が前後するが本番当日まで結果ろくな仕込みが出来なかった。出来たのは舞台にリノリウムを敷いたくらい。まあ、コレも一悶着あって、壁の薄〜い黒布や、床の絨毯(舞台用のではなくフツーの絨毯な)をはがすのに上の方にいちいち許可を取ったりとうんざりするやり取りがあったのだ。
これが前日までの舞台。
リノリウムを敷き終わって放心しているところ。
いろいろと準備が整ってないと言う話は事前に聞いていて、だからこそ一番小さな劇場を選んだのだが、セミナールームを改装したような会場にうんざりしつつも、前日に何とか作業を進めた。
しかし、ホントに凄かったのは当日な。
なんと本番当日の朝に舞台上でほかの人のWSが行われたのだ!
予定を聞いたのは前日の夜。当然いきり立つオレ。照明音響も全く仕込んでない状態で本番午前中を取られたら、お手上げですわ。前の日に「コレじゃあ出来るわけないだろう」とドイツ側の責任者に公演のキャンセルを打診した。これはもうアナタたちの責任でもあるよなと。プログラムには一応書いている、と言ってたが会場は書いてなかったし。第一そのスケジュール自体に無理あるって最初から分るじゃん。しかし向こうは「状況は理解したが出来るだけがんばってほしい。」と愚にもつかないような答え。
そんなこと、分かっとるわ。
WSの会場を変えるとか出来んのか?と聞くと出来るだけやってみる、とのことで「それが出来てなかったらホントにキャンセル考えるからな」と釘を刺しておく。
当日劇場に入るとまあ、当然のようにWSやってましたよ。責任者はいないしな。人を捕まえて聞くと、分らない、でも変更は無理との答え。その上「公演は夜だろ、ならまだ時間あるじゃん」とノタマッタ。この
のれんを全力で腕押ししている
ような感覚にヒザの力が抜けてくる。あ、ヒザって言えば右ヒザ調子悪かったんですけど、もう痛みを感じないのな。それどころじゃないもんで。これ、良い治療法かも!話の通じない人と話すって体の痛みを忘れるのな。長い事生きてると「せいめいのしんぴ」に気づくなあ。みんなもどこかが痛いときは話の合わない人と一生懸命話すといいよ!
とにかく出来る所までやって限界の時点で最終決断をする事にし、お昼まで待つ。その間に照明をやってくれるポーランドの役者と打ち合せ。これも現地のテクニックがやるはずだったが、もう信用できんとの事でこちらで人を見つけた。照明キューをかなり簡素化し説明しつつ渡していく。本来はドイツからテクニックが同行するはずだったのだのよ。それが直前に行かない事になったのな。こういう諸々もドイツ側のパートナーにすでにして問題があると思うが。ま、しかし、その役者は勘のいい人で話が早くて助かった。こういうときって人が結びつくなあ。あっという間にそいつと仲良くなったよ。
12時になり、ようやっとWSが終わったので劇場に入り準備を始めようとしたら、急いで人が来る。曰く、今は休憩で第二部があると!すぐに人がぞろぞろ戻ってきて第二部の始まり。あげく終わったのは
1時過ぎ。
みなさん、コレがどういう事かお分かりでしょうか?
ふつうな、ツアーで舞台やるときって前日の朝、もしくは昼くらいから仕込みって始めるのな。それで出来ればその前日に音照明をあわせた通しリハーサルをやってしまうのよ。そこで出たいろいろな問題を(劇場のサイズが違うとか、照明の不具合など)当日に直してから本番に臨むのな。出る方としても本番前にバタバタしたくないからな。
ま、基本そんな感じで、後はスケジュールの具合から臨機応変にやりくりしていくんだけど、
本番当日の午後から仕込みで
夕方5時30分から本番。
ってあり得ないと思いません?ちょっとそこのアナタ!
しかしようやっと舞台もあき、一緒に行ったヨーロッパ勢も手伝ってくれるとの事で仕込みを始める。
今回持ってきたサイエンスフィクションは4年前の作品でカメラオブスクラという、レンズで逆さまの絵を映し出す仕掛けを使うのな。それだけでも結構めんどくさい上に照明も結構細かいのよ。他に持って来れる作品がなかっただけなんだけど今更ながらなんでこれをもって来たんだろうと思ったね。すぐにガビは1時間押しましょうといってきた。6時30分からにしますと。急いでその手配をしてもらい、作業を続ける。照明のつり込みも機材を減らしたので時間もかかるまいと思っていたら、なんだか様子がおかしい。ふと見ると、なんとハリガネで照明をくくりつけている!
これじゃあ、照明の角度変えられないじゃん。どうすんだよ。どうやら劇場にはハンガー自体がないらしい。分りましたハリガネでつって下さい、後はこちらがやりますからと、作業を任せる。で、照明がつり終わり、配線にかかるとまたまた信じられないことが!劇場テクニックのヒワ(っていう名前)がなんとケーブルをペンチで切って歯で外側のゴムを食いちぎって裸で結線している!!!
ひょえええ。その上いくつかの配線はコンセントに直接裸の線を差し込んでいる。
もう小学校の理科かと。豆電球かと。
とにかくこいつ、ヒワが劇場テクニックの責任者なのだがいちいち常識がなくて、無駄な時間を使わせる。とにかく残り時間を考えて仕事をする、ということが基本的に理解できないようで、コレの次はコレだぞ!といちいち自分のやり方を押し付けてくる。そこで通訳を交え一悶着。納得するまで10分作業停止。この時限爆弾のなっている状態でカタツムリにがっちりブレーキをかけるヤツの手腕に脱帽。なあ、頼むから手、動かしてくんない?
ここら辺からコッチも容量オーバーになりいちいち突っ込む気力も無くなってきた。その結線している様子をぼーっと眺める。しかしホントに本番出来んのかな?
配線が終わり、照明を確認していく。その際にも色々問題があったが(いちいち照明のチャンネルを差し替えて使ってたり、チャンネルがどんどんこわれ結果4チャンネルしか使えなかった等々)気を取り直し、ようやっと頭からキューの確認をしましょうかという瞬間、ヒワが劇場をあけだした!5時30分で開演だぞと。
お前さっき開演延ばすって通訳から聞いてたろう!しかも今照明仕込み終わったばっかじゃん。なにしてんだよ。聞くと開演時間を延ばす話が当然のように外側には伝わっていなく、観客が押し寄せているらしい。すぐに責任者に説明をしてもらうようにお願いし、キューの確認をしていく。30分ほどで確認を終えたあともう待ちきれないと、雪崩のように開場した。
こちらの舞台では開演前に演出家なり、プロデューサーなりが作品の内容やカンパニーの紹介をするというのが通例となっているらしく、僕はドイツ側のパートナーに頼む予定だったのだが、急遽自分が話す事にする。遅れた原因は観客にも伝わってないらしく若干いきり立ってたからね。
まず遅れた事をお詫びし、かなりの人いきれで暑くなってエアコンの効きも限界のためプログラムで扇いでもいいけど携帯は切って欲しいなどのお願いをする。
こちらでは本番中ばしゃばしゃカメラを撮るのが当たり前らしく、僕らの前のカンパニーでその様子を見ていたので写真は黙認することに。英語で話すと観客の空気が和らぐのが分りちょっと落ち着いてきた。司会の人がそれではよろしくお願いしますと、歌謡番組のような促しで本番スタート。明かりが消え位置につく。
ってな流れでなんとか始まった本番のことはよく覚えてません。照明も音響も何度かトチったがこちらもぶっつけ本番でトラブルがなかっただけでよしとしたい。終わると熱狂的な拍手。しかし、昨日見た舞台は最強につまんなかったあげく帰る人多数だったのに拍手は熱狂的だったのであまり信用する気にならない。
終わると観客が舞台に上がってきて一人一人握手して挨拶するのな。面白い習慣だけど、基本的には喜んでいる事が何となく伝わってきて一応ほっとする。イラクってダンスは全然盛んじゃないのな。だけどマイムは結構やっている人が多いらしく、そういった雰囲気の人からしつこく質問されたりとかものすげえ勢いで抱きつかれたりとかの反応ぶりを見て、受け取ってくれた人もいるのかなと思えたよ。もちろん普通の芝居と思って来て、怒って帰った人も居たようだけどな。
終わって片付けしているとヒワが「じゅんじゅん!よかったな」だって。
今度はオレがのれんになる番ですわ。