「ダンス と ごはん」 その2


その舞台を見たのはもう10年以上前になる。人気公演で知り合いにチケットを取ってもらい原宿へ向かう。不思議だったのは開場時間でチケットに記載されている開場時間が開演の1時間前なのね。普通演劇やダンスの公演って30分前開場だから、なんでかなと。200席くらいの中箱ですよ。東京ドームのコンサートじゃないんだしそんなに時間必要なのかね。と思いつつ、何時もの通りに開演15分くらい前に劇場に向かう。原宿の複合ビルの確かエレベータを上がって2階が劇場になっていた。正面のガラスから見えるロビーの様子におや?と思った。結構な数のお客さんがロビーにいて、しかもパーティみたいな雰囲気でガヤガヤしている。しかもなんだか楽しそうに賑わっている。なんだろうと思い入り口でチケットをもぎってもらい中に入ると、一層のざわめきに包まれる。みんな飲み物を飲み、サンドイッチやおつまみを持って食べていることに気づく。え?食事販売してるんだと思ったが、販売じゃなかった。無料で提供していたのだった。ロビーのカウンターからは次々とワイン日本酒ウイスキーなどの紙コップがトレイに満載で提供され、別のカウンターからはサンドイッチや唐揚げ、果てはミニお寿司まで振舞われ観客はそれを次々に手を伸ばして食べて飲んで盛り上がっているのだった。ひえええ!なんじゃこりゃ。と思いつつもこちらも御相伴に預かろうと赤ワインをもらいサンドイッチをつまむ。なんだか祝福されているようで気持ちもほころんでくる。振り返るとすでにあちこちで話に華が咲いているようで、まるで立食パーティの中にいるよう。これが開演の1時間前の開場という理由だった。常連の方々はこの大盤振る舞いをご存知で早めに劇場に来て知り合いと食べて飲んで話してと開演前から楽しんでいたというわけ。こんなサービスは初めてだったのでかなり驚いた。そしてそのサービスが用意周到に考えられたものだということが後になってわかった。開演前にやんややんやの盛り上がりを見せるロビーに客席開場の声がかかる。ここら辺ヨーロッパの劇場みたい。ドイツをはじめヨーロッパの劇場ってロビーで待たせるのよ。客席開場は本当に5分前というか、始まるときに客席を開いて人が全員座ったら開演てなくらいのノリなのね。日本の静かに客席で待ってるという感じじゃなくて。そこらへんもヨーロッパみたいだった。ガヤガヤと賑やかなまま、客席に流れ込み、さあいよいよ始まるぞとみんなの期待も十分。そして暗転。そのお目当の俳優が出てくるなり会場割れんばかりの拍手!こちらも嫌が応にも盛り上がる。
その観客の盛り上がりぶりを目の当たりにして、あ、ぼくらは準備させられてたんだ!と気づいたのよ。その舞台の演目はコミカルで秀逸な人物造形描写が評判の一人芝居。ぼくらは飲んで食べて大変にリラックスした状態で、その公演を観るのにちょうど良い温度で客席に座ったわけね。そしていよいよの開演じゃん。うまいこと仕組まれてたな!と思ったけど、それはもちろん嬉しい仕掛けでさ。そしてすでに温まっている客席の反応もよく、芝居とスウィングしまくる。観客のエネルギーを得たその俳優もエンジンが吹け上がる。
読んでるうちに気づいた人もいると思うけど、その舞台は原宿クエストホールでのイッセー尾形「都市生活者カタログ」です。お客さんもノリノリでこの年に一度のネタ下ろしの会を楽しみにしている感じでさ。演目は流石の横綱相撲で、生で見れて感動だっただけにとどまらず、終演後もお酒におつまみの大盤振る舞いで、果てにはイッセー尾形本人がロビーにギター片手に出てきて歌って盛り上げる!これは観客は嬉しいでしょう。圧巻の一夜だった。これを体験した時に「そうだ、ダンスに足りないのはこれだ!」と思ったんだよね。観客を楽しませる気遣いというか、もてなす感覚が抜群に効果的でいてそれが、本番自体の空気にも大きく影響していてね。もちろん無料(でご飯やお酒が出ること)ってことが大きいのだけど、何よりそれが公演の出来自体を底上げしていて見に来た観客も大満足というこのカラクリが見事でした。こういうところは批評で語られないことだけど、実は舞台鑑賞のボトムを支えるとても大きなことなんじゃないだろうかと思ったんだよね。映画も例えば「男はつらいよ」の観客みたいにお盆とお正月は「寅さん」を観るってのが人生の息抜きって人は大勢いたと思うのね。そしてそういう観客は批評と無縁にいて。けどそういう観客が映画という産業自体を支えていた面があるわけでさ。この体験をヒントに自分も、「観客にとっての良い時間」を提供する。ってことが大事なことだと確信して、自分のWSの発表会でお酒とご飯を出すことに決めて実行したわけ。やってみると割とその雰囲気を持ってこれることに気づき、いろいろ形を探りつつも今に至ってるんだよね。その後にドイツにいってお酒を飲みながら公演前に語らう劇場のロビーの活気を見て、我が意を得たりの感もあったのよ。みんな作品だけでなく、劇場に来る行為を楽しんでいるんだなと。その雰囲気は言われないと気づかないけど確実に観劇体験に影響しているよなと。そんなこんなで、ジロウに京都で公演してくださいと言われた時にも「お酒とおつまみ」を提案してこの企画に結実しています。ま、いうのは簡単なんだけど、実現には様々な困難が伴っていたはずで、お酒とおつまみを出せる会場の選定から人の手配、その他諸々の制作仕事を含め、ジロウがほぼ一人でこの企画を回しているのは頭がさがるばかり。彼の不思議なところでそういうのを割とニコニコしながらやってるんだよね。自分の出る場ということはもちろんあるんだけど、ゲストを呼んだりしつつ楽しく回している感じが漂って。そんな彼を慕ってでしょうか。年々お客様も増えつつあり今年は売り止めが出そうな雰囲気で。そんな楽しい場所になるようそれぞれ東京と京都で最後の詰めに励んでおります。一緒に楽しい時間を過ごしましょう。会場でお待ちしてます!

[公演情報]
「ダンス と ごはん」じゅんじゅんSCIENCE & アミジロウ ダンス小作品集
東京を拠点に国内外で活動する じゅんじゅんSCIENCE が小作品集「NOTE」シリーズを今年も京都にて上演!演劇とダンスの間でひらりと踊り続ける男・アミジロウとの合同パフォーマンス。ゲストには多数の舞台に引っ張りだこ、自身のユニットにソロと精力的に活動する益田さち。「ごはん」には好きが高じて食品衛生管理者の資格まで取得したダンサーのネコ ザ ポンティ。ダンスを観て、美味しい食事とお酒とお喋りを楽しむ、そんな会です。
★日時
11月30日(金)19:30
12月 1日(土)19:30
受付開始・開場は開演の30分前 ※席数に限りがありますので、事前のご予約をお勧めします。
★ワークショップ(WS)開催!
11月29日(木) 19:00〜21:00 (定員10名)
毎回大好評の高橋淳WS。日々の動きにイメージを加えることでダンスを掘り起こしていきます。ダンス経験は問いません。身体を動かす事に興味がある方なら誰でもご参加いただけます。
★会場  White Cloud Kyoto
(京都市中京区三文字225朝陽ビル2F)地下鉄 烏丸御池駅 5出口より徒歩4分 阪急烏丸駅、地下鉄四条駅 18番出口より徒歩8分 ※会場に駐車、駐輪場はございません。予めご了承ください。会場へはこちらのブログをご参照ください。
地下鉄・烏丸御池駅から。http://amijirokikaku.seesaa.net/article/462336893.html
阪急・烏丸駅、地下鉄・四条駅から。http://amijirokikaku.seesaa.net/article/462336549.html
★ダンス 高橋淳 久井麻世 (じゅんじゅんSCIENCE)/益田さち/アミジロウ
★ごはん ネコ ザ ポンティ
★料金 前売 2000円/当日 2500円 (1ドリンク付。2杯目及びごはんは別途料金がかかります)/WSとセット3500円/WSのみ 2000円
★ご予約 件名を「チケット予約」として「お名前、ご希望公演日、チケット枚数」を明記の上、下記アドレスにメールにてご予約下さい。WS参加申し込みも同アドレスで受け付けます。ご質問などもお気軽にどうぞ!
アミジロウ企画 jirometabo@gmail.com
http://amijirokikaku.seesaa.net
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