Sider
かなり日付前後してますがとにかく書きます。
フォーサイスの新作。二本立ててベルリンに来ていますがそのうちの一本。見たのは7月の10日ね。
劇場はベルリンの西側にあるBerliner Festspieleというところ。わりとエスタブリッシュな雰囲気で名だたるカンパニーがやることが多いかな。開演は8時半ですが全然明るいため夕方のような感じ。日本だとお盆の夕方にこれから盆踊り始まるぞお!ってな雰囲気でね。みんなワインやビールなんかを飲んで楽しそうに待っている。こういったオープンな雰囲気もヨーロッパの夏独特の空気ですね。それに観客層が幅広い。もちろんダンサーが多いんだけどそれ以外にも結構お年をめした男性のカップルや家族連れなんかも来ていてそれもまた新鮮で。
コッチの劇場は開演ギリギリになって客席に入るシステムなのね。それでもってドイツの劇場は客席の縦の通路がないので横からみんなズラズラーっと入っていく。
舞台には蛍光灯が客席に向かって何本も吊られている。普通は照明のバーって客席と並行にあるでしょ。それをわざわざ鉄の骨組みを追加して縦に吊っているのよ。クールでかっこいいね。
ほぼ満員の劇場が暗くなって始まった。
最初に男性二人、女性一人のダンサーがでてきてやおら動き始める。男性は茶色のボードを持っている。ちょうど畳の大きさくらいの。いくつかのバリエーションを踊っているうちに他のダンサー(全部で15、6人ほど)がでてくる。みんな畳大のボードを持って。そのボードで人を塞いだり邪魔したりしてムーブメントを作っていく。一見ラフそうに見えるけど結構細かく決まっているのでしょうね。いくつかの場面で一斉に奥の人が横に動いたり何人かが縦にでてきたりとかする。しかしそれも何かかっちりとシステマティックな決まりに従っているわけでもなさそうな。
僕がやるとすると何かはっきりしたストーリーやら動機やらを展開させると思うけど、あまりそういった「物語」は見えないのよ。っていうか物語に回収させないようにしているのかもしれないですね。フォーサイスですし。だもんでいっこうに何をやっているかは全然わからないんだけど飽きないのよ。それは何故か。
ダンサーの動きの強度が半端ないから。特に男性ダンサーの素晴らしさは特筆もので。誰が、と言うわけでなく全ての男性ダンサーが素晴らしい。アスリートとかマーシャルアーツのプロみたいな緊張感と強度を併せ持ちつつものすげー柔軟、みたいな。ええとねえ、イチローと新庄と香川が一緒にいるって感じ。
もちろん女性ダンサーも素晴らしかったのですが、明らかにフォーサイスがこの作品において男性ダンサーで骨組みを組み立てているだろうことは見て取れた。
途中首にシェークスピアみたいな輪っかをつけたダンサーが出てきたり、警句のような文章が奥に投影されたりと、ありましたが、意味はぜんぜんわからん。もうちょっと一見さんも「なるほど!」とびっくりするようなシーンがあっても、とは思いましたけど、そこはそれ『フォーサイス』ですから、と軽やかに観客をおいていく。よくも悪くもこれだけのダンサーをそろえているからこその作品だなと思いました。
そうそう、タイトルの「Sider」ですがinsider,outsiderから来ているとのこと。僕はてっきり炭酸のことだとずっと思っていて「おお、かれはいい炭酸っぷりだ」「ああ、ここは微炭酸だな」とか思ってました。
音と照明もかっこ良かった。いくつかの蛍光灯がぱっとついてゆっくり消えていくのを繰り返すのね。そこに低音で轟々いう音が小さく入ってきてね。それだけでも異空間が出来上がっていて、一見シンプルな舞台装置ですがとても効果的でした。
ちょっと意外だったのはラストね。色々あった後最初の3人のダンサーがでてきて頭のシーンの繰り返しになって終わったのよ。ヒョエええ。フォーサイスらしくない!
彼って制度の破壊者っていう印象があって。例えば始まるときに客電をつけっぱなしでしばらくやったり、照明バトンが降りたままそれをくぐってダンサーが出てきたり、え?という変なところで突然緞帳が降りて終わったりとかね。ま、昔もう20年くらい前かなあ、に見た時はそんなのがいちいちかっこ良かったんだけどさ。
この作品では教科書に載ってそうな「A-B-A」の構成で逆にびっくりした。
ま、全体的に見応えはあったよ。観客の期待度も満点だったし。全然わからんかったけどダンサーは強いしちょうどいい時間(60分)だったのもあって。そういえばフォーサイスの作品でこういう一本ものって初めて見た気がする。ある種の落ち着きも感じたというか。
彼ももう60を越えているんだよね。別の会場でやっていたビデオ作品にでていた彼を見て経てきた時間を感じたりもした。
しかしながらまだまだ元気で好きなことをやっている様子は頼もしくありました。元気をもらったよ。